常勤役員等とは何か
建設業許可では、建設業法第7条第1号により、建設業の経営業務を適正に行う能力を備えた体制が必要です。その確認方法を定める建設業法施行規則第7条第1号では、法人の場合は常勤の役員のうち1人、個人の場合は本人または支配人のうち1人が、所定の経験を持つことなどを求めています。
大阪府の手引きでは、この人を「常勤役員等(経営業務の管理責任者等)」と表記しています。法人の対象となる役員には、株式会社の取締役、持分会社の業務執行社員、指名委員会等設置会社の執行役などが含まれます。個人事業では、事業主本人または商業登記された支配人を確認します。
役職名だけで決まるものではありません。現在の申請者における立場と常勤性、過去に担当していた経営業務、その期間を裏付ける資料まで確認して、どの経験類型を使うかを整理します。
建設業許可の要件全体については別の記事で解説しています。本記事では、その中でも常勤役員等に焦点を絞ります。
「旧経管」と現在の制度は、単なる名称変更ではありません
以前は、建設業の経営業務を管理する一定の経験を持つ人を、一般に「経営業務の管理責任者」または「経管」と呼んでいました。2020年10月施行の改正では、従来型の個人の経験による確認に加えて、一定の経験を持つ常勤役員等と、その人を直接補佐する者を組み合わせた経営体制でも基準を満たせる仕組みが設けられました。適切な社会保険加入も、経営管理体制に関する省令上の基準に位置付けられています。
そのため、「経管が常勤役員等へ名称変更された」とだけ理解するのは正確ではありません。現在は、誰のどの経験を使うのか、個人の経験で確認するのか、直接補佐者を含む体制で確認するのかを先に整理する必要があります。
常勤役員等に該当する代表的な経験類型
大阪府の手引きと国土交通省の説明では、代表的な確認方法として次の類型が示されています。
建設業で5年以上、経営業務を管理した経験
建設業に関し、5年以上、経営業務の管理責任者として経営を総合的に管理した経験を使う類型です。法人の常勤役員、個人事業主や支配人のほか、営業取引上対外的に責任を持つ支店長・営業所長等での過去の経験が対象となり得ます。
ただし、「取締役として登記されていた期間が5年ある」「会社設立から5年が経過した」という事実だけでは判断できません。その期間に建設業を営んでいたこと、本人が経営業務を管理する地位にあり、原則として常勤していたことを資料で確認します。
権限を委任された準ずる地位で5年以上、経営業務を管理した経験
取締役会の決議等により特定の建設事業部門について具体的な業務執行権限を委任され、役員等に準ずる地位で5年以上、経営業務を管理した経験を使う類型です。
「執行役員」「部長」などの肩書だけでは足りません。どの権限を、誰から、どの期間に委任され、実際に何を管理したかを、組織図、規程、取締役会議事録、人事発令書等で確認します。大阪府では個別審査・事前相談が必要となる類型です。
準ずる地位で6年以上、経営業務を補佐した経験
建設業に関し、経営業務の管理責任者に準ずる地位で、6年以上、経営業務の管理責任者を補佐した経験を使う類型です。補佐していたという説明だけでなく、当時の組織上の地位、担当業務、在職期間及び建設業の営業実態を資料で確認します。
これら以外にも、次に説明する直接補佐者を含む体制や、国土交通大臣による認定の類型があります。どの類型を採るかによって確認資料が変わるため、年数だけで先に結論を出さないことが大切です。
常勤役員等と直接補佐者による体制
施行規則には、一定の役員等経験を持つ常勤役員等に加えて、その人を直接補佐する体制で基準を満たす方法があります。常勤役員等については、主に次のいずれかを確認します。
- 建設業で2年以上の役員等経験があり、役員等または役員等に次ぐ職制上の地位で、財務管理、労務管理又は業務運営のいずれかを担当した経験が通算5年以上ある
- 役員等の経験が通算5年以上あり、そのうち建設業での役員等経験が2年以上ある
さらに、申請する建設業者または建設業を営む者において、次の経験をそれぞれ5年以上持つ直接補佐者を置きます。
- 財務管理:工事資金の調達、資金繰り、下請代金の支払等
- 労務管理:社内・工事現場の勤怠管理、社会保険関係の手続等
- 業務運営:会社の経営方針・運営方針の策定、実施等
3人を別々に置かなければならないわけではなく、1人が複数の経験を兼ねることもできます。一方、ここでいう「直接」とは、組織上も実態上も常勤役員等との間に他の人を介さず、その常勤役員等から直接指揮命令を受け、常勤で業務を行うことです。
この体制は、肩書や社内の呼び方だけでは確認できません。常勤役員等の経験に加え、補佐者それぞれの業務内容、経験期間、在職状況及び現在の組織上の位置付けを示す必要があります。大阪府では事前相談の対象とされ、追加資料を求められる場合もあります。
年数だけでなく、現在の常勤性を確認します
過去に必要な経験があっても、申請時点で法人の常勤役員等または個人事業主等として要件を満たしていることが必要です。
大阪府の手引きは、法人の常勤役員について、原則として本社・本店等で、休日など勤務を要しない日を除き、一定の計画のもとで毎日所定の時間中に職務へ従事する人と説明しています。役員報酬は月額10万円を目安としていますが、これは法律上の一律の最低額ではありません。10万円未満の場合には、別の資料を加えて常勤性を確認します。
「常勤」は、営業所から一歩も出ず常に在席するという意味ではありません。実際の勤務実態、勤務場所、報酬・給与、社会保険や住民税の資料、ほかの会社や法令上の専任職との兼務状況を総合して確認します。
他社の役員を兼ねているだけで一律に不許可になるとは限りません。ただし、他社で常勤または専任を要する業務に従事している場合は、原則として重複して常勤性を確認できません。同じ法人・同じ場所での兼務など例外的に確認できる場合もあるため、役割と勤務実態を個別に整理します。
また、常勤役員等が営業所技術者等の要件も満たす場合、大阪府の手引きでは、同一営業所(原則として本社・本店等)に限って兼ねられる場合があります。
経験を何で確認・証明するのか
申請前の資料整理では、次の4つを分けて確認すると見通しが立ちやすくなります。
1. 当時の地位と在職期間
法人役員としての経験では、履歴事項全部証明書・閉鎖事項全部証明書、法人税確定申告書の役員給与等の内訳書などを使い、役員としての地位と常勤していた期間を確認します。登記事項証明書だけで建設業の営業実態や経営業務の内容まで証明できるわけではありません。
役員等に準ずる地位や直接補佐者の経験では、組織図、業務分掌規程、取締役会議事録、稟議書、人事発令書、被保険者記録等を組み合わせ、地位、権限、業務内容及び期間を確認します。
2. 建設業を営んでいた事実
法人での経験では法人税確定申告書の別表一・決算報告書、個人事業での経験では所得税確定申告書第一表などが代表例です。過去に建設業許可を受けていた事業者の場合は、過去の許可申請書、変更届、許可通知書、決算変更届等を使えることがあります。
3. 建設工事の実績と継続期間
工事内容、工事期間、請負金額が分かる工事契約書、注文書・請書、請求書等を確認します。大阪府は、法令上必要な経験期間について毎年分の代表的な建設工事を確認し、確認する工事同士の間隔が1年以上になる場合は、その間の別工事も確認するとしています。
書類の名称がそろっていても、工事内容が建設工事に当たるか、本人の地位と建設業の営業実態を確認できる期間が重なるかを見ます。1種類の資料だけで必ず認められるものではありません。
4. 現在の常勤性
法人役員・従業員では、健康保険被保険者標準報酬決定通知書、住民税特別徴収税額通知書などが代表例です。個人事業主では住民税課税証明書や、発行時期によって直近の所得税確定申告書を確認します。
就任・雇用直後、出向中、二以上の事業所で勤務している、報酬が大阪府の目安額を下回る、住民票上の住所と居所が異なる、通勤距離が長いといった事情がある場合は、追加資料や事前相談が必要になることがあります。
必要書類は経験類型と個別事情によって異なり、審査で追加資料を求められる場合もあります。大阪府の最新版で、使う類型に対応する資料の組み合わせを確認してください。
法人役員、個人事業主、法人成り、前職経験で確認点が異なります
現在または過去の法人役員としての経験
役員登記の期間だけでなく、建設業の営業実態、工事実績、役員報酬等を確認します。複数の会社での経験を使う場合は、会社ごとに資料と証明期間を分けます。
個人事業主としての経験
所得税確定申告書に加え、工事の契約書、注文書・請書、請求書等で建設業を営んでいた期間を確認します。申告形態や電子申告の時期により、受信通知などの確認資料が必要になります。
個人事業から法人成りした場合
個人事業時代と法人設立後の期間が自動的につながるわけではありません。それぞれの期間について、本人の地位、建設業の営業実態、工事実績及び常勤性を確認し、合算できるかを整理します。
前職や別会社での経験
前の勤務先での役員・支店長等の経験を使う場合、当時の会社の確定申告書や工事資料、過去の許可書類などが必要になることがあります。証明者の協力を得られるか、必要期間の資料が残っているかを早めに確認します。
申請前に集めたい資料のチェックリスト
- 常勤役員等となる人の現在の役職と勤務状況を確認した
- どの経験類型を使うか候補を整理した
- 経験した法人・個人事業ごとの期間を年月単位で並べた
- 登記事項証明書や過去の役員期間を確認できる資料がある
- 期間中の確定申告書・決算書を確認できる
- 建設工事の契約書、注文書・請書、請求書等が年度ごとにある
- 過去の建設業許可申請書・変更届・決算変更届の有無を確認した
- 現在の常勤性を示す社会保険・住民税等の資料を確認した
- 他社役員、出向、他法令の専任職などの兼務状況を整理した
- 直接補佐者体制を使う場合、業務内容・期間・組織上の位置付けを確認した
不足する資料があるからといって、直ちに経験を使えないと決まるわけではありません。一方、代替資料を推測して申請書を先に作ると、必要期間がつながらないことがあります。まず手元の資料を時系列に並べ、どこを追加確認するかを決めます。
要件を欠いた場合に備え、後任者候補も確認します
常勤役員等に関する基準は、新規申請時だけ満たせばよいものではありません。許可後も継続して経営管理体制を維持する必要があります。
退任・退職などにより現在の常勤役員等または直接補佐者の体制が変わる場合は、代わる人がどの類型を満たし、どの資料で確認できるかを事前に点検します。建設業法は、第7条第1号の基準を満たさなくなった場合などの届出を定め、許可基準を満たさなくなったことを許可取消しの事由としています。
「欠員後に一定の猶予期間がある」「後から経験者を探せばよい」とは考えず、役員変更や事業承継の前に後任候補と証明資料を確認することが重要です。
最新情報の確認先
本記事は2026年8月31日時点で、次の一次情報を確認して作成しています。制度、様式、確認資料及び窓口運用は変更されることがあるため、申請時点の最新版をご確認ください。
- 大阪府「建設業許可の手引き」
- 大阪府「建設業許可申請の手引き(令和8年3月改訂版)第2章」
- 大阪府「建設業許可申請書類(法人用)」
- 国土交通省「許可の要件」
- e-Gov法令検索「建設業法」
- e-Gov法令検索「建設業法施行規則」
よくある質問
建設業の役員経験が5年あれば、必ず常勤役員等になれますか。
年数だけでなく、経験した地位と業務内容、建設業を営んでいた事実、現在の常勤性及びそれらを確認できる資料が必要です。個別の該当性は大阪府の最新手引き等で確認します。
個人事業主としての経験も対象になりますか。
建設業を営む個人事業主としての経営業務管理経験が対象となり得ます。ただし、経験期間と建設業の営業実態を確認できる資料が必要です。
常勤役員等と営業所技術者等を兼ねられますか。
同一営業所で双方の要件を満たす場合など、兼務が認められる場合があります。役割、勤務場所、常勤性その他の条件を個別に確認してください。
関連ページ
- 建設業許可の要件とは? — 許可要件全体と、申請前に確認する資料の考え方を解説します。
- 建設業許可の500万円基準とは? — 許可が必要になる請負金額と判断時の注意点を整理しています。
- 大阪の建設業許可申請 — 要件確認から申請までの支援内容と料金を案内します。
- 建設業支援 — 許可、決算変更届、更新、経審、入札参加資格、CCUSの全体像を確認できます。
- お問い合わせ — 経験期間と現在お持ちの資料を、分かる範囲でお知らせください。
経験期間と資料を照らし合わせて、申請準備を整理します。
法人役員、個人事業、法人成り、前職などの経歴を時系列で確認し、使える可能性のある経験類型と不足資料を整理します。資料の確認は許可や審査結果を保証するものではありません。




