「5年に足りない」の前に、どの経験を数えるかを確認します

建設業法第7条第1号は、建設業の経営を適正に管理できる能力を求めています。その具体的な基準を定める建設業法施行規則第7条第1号には、本人の経験による「イ」、役員等の経験と直接補佐者の体制を組み合わせる「ロ」、国土交通大臣の認定による「ハ」があります。

法人では常勤の役員のうち1人、個人では事業主本人または支配人のうち1人が対象です。代表取締役本人でなければならないとは限りませんが、過去の経験を持つ人がいることと、その人が申請時に常勤役員等として要件を担えることは別です。

本記事は、大阪府の令和8年3月改訂手引きをもとに、どの類型を検討し、何を確認するかに絞って説明します。基本的な位置づけは常勤役員等の要件と確認資料、許可全体の要件は建設業許可の要件をご覧ください。

経験ルートの比較表――年数と「証明する事実」をセットで見る

表のa1〜c3は大阪府手引きの表記です。法定の難易度順位や許可の通りやすさを表すものではありません。資料の残り方、前職の協力、現在の人員配置によって準備の負担は変わります。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。

類型 本人の経験年数・内容 地位・権限と事業実態の資料例 現在の体制・準備上の着眼点
イ(a1)
経営管理経験
建設業に関する経営業務の管理責任者として5年以上登記・役員報酬、個人事業の申告資料など。建設業の営業実態と工事実績も対応させる現在の地位・常勤性が必要。前職の経験では申告・工事資料等の提供協力を確認
イ(a2)
執行権限の委任
建設業に関し、執行権限の委任を受けた準ずる地位で経営業務を管理した経験5年以上取締役会議事録、権限規程、組織図等と、対象部門の建設業の実績・経験期間現在の地位・常勤性が必要。当時の委任内容が分かる社内記録を探す。前職への照会が必要になることも
イ(a3)
準ずる地位での補佐
建設業に関し、準ずる地位で管理責任者を補佐した経験6年以上当時の組織図・在職資料等と、補佐した業務内容、建設業の営業実態・工事実績現在の地位・常勤性が必要。役職名だけでなく職制を確認し、過去の会社に資料の所在を照会
ロ(b1)+c1〜c3建設業の役員等2年以上、かつ建設業の役員等または役員等に次ぐ地位で財務・労務・業務運営のいずれかを担当した経験5年以上役員期間、職制と担当業務、建設業実績を示す資料。次ぐ地位の期間は組織図・業務分掌・人事発令等を確認本人に加え、3分野の直接補佐者が必要。それぞれの経験・現在の常勤性を確認。前職経験と補佐者の自社経験を区別
ロ(b2)+c1〜c3役員等の経験5年以上、そのうち建設業の役員等経験2年以上業種ごとの役員期間の資料と、建設業に関する期間の営業実態・工事実績。前職が他業種ならその役員経験資料も確認b1と同じく3分野の直接補佐者が必要。本人の経験年数だけで完結しない
ハ
大臣認定(別枠)
イ・ロと同等以上の経営体制について国土交通大臣の認定を受けるもの認定の対象・手続・必要資料を個別に確認一般的な年数不足の解消方法とは扱わず、申請先等へ確認する

表の資料は確認候補です。全案件に同じ一式を求める趣旨ではなく、法人・個人、経験の類型、当時の許可の有無で組合せが変わります。ロのc1〜c3はb1・b2に共通する必須条件であり、「補佐スタッフを置く」という独立した第6のルートではありません。

イ(a1):登記された期間だけで5年とは決めません

建設業の経営業務について、対外的に責任を持つ地位で総合的に管理していた経験を確認します。取締役や個人事業主のほか、支配人、支店長・営業所長等の経験も、実際の地位と権限に応じて確認対象になります。大阪府手引きでは、原則として常勤であったことも確認します。

法人なら登記事項証明書で役員期間が分かっても、建設業を営んでいた実態と常勤での経営管理まで、それだけで証明できるとは限りません。申告書・決算書、役員報酬、工事の契約書・注文書・請求書等を対応させ、それぞれの資料で確認できる期間が重なるかを見ます。

過去に許可を受けていた事業者での経験は、許可申請書・許可通知書等による確認方法もあります。個人事業主の建設業許可や新設会社での経験証明も、事業形態に応じた確認の参考になります。

イ(a2):執行役員の「肩書」ではなく、委任された権限を確認します

会社法上、指名委員会等設置会社の「執行役」と、社内の呼称として使われる「執行役員」は同じではありません。名刺や辞令に執行役員と書かれ、その期間が5年あるだけでは、a2に該当するとは判断できません。

大阪府手引きは、取締役会設置会社において、取締役会の決議で特定事業部門の業務執行権限の委譲を受ける者として選任され、定められた業務執行方針に従い、代表取締役の指揮命令のもとで具体的な業務執行に専念していたことを示しています。

資料を探すときは、次の順に整理すると確認事項が見えます。

  1. 当時の組織の中で、役員等に次ぐどの地位にいたか。
  2. 任された部門が建設業の事業部門だったか。
  3. 誰から、どの決議により、どの範囲の権限を委任されていたか。
  4. 実際に経営業務を管理していた内容と、5年以上の期間を確認できるか。

取締役会議事録、定款、職務権限規程、組織図、業務分掌、辞令、在籍・報酬資料等は確認候補です。必要な組合せは事案によります。大阪府手引きも、この類型は事前相談を案内しています。

当時の記録が見つからない場合は、残っている資料と不明点を分けて相談します。今から社内規程を整備することと、過去に権限を委任されていた事実を証明することは別です。 当時存在しなかった決議や文書を遡って作る方法は採れません。

イ(a3):本人の過去の補佐経験は6年が基準です

a3は、建設業に関し、経営業務の管理責任者に準ずる地位で管理責任者を補佐した経験を使います。必要な期間は6年以上で、a1・a2の5年と区別します。

大阪府手引きは、経営業務について対外的に責任を持つ地位に次ぐ職制上の地位を確認対象としています。「社長を手伝った」「長く事務を担当した」という説明だけでは足りず、当時の組織上の位置、在職期間、補佐した業務の実態、建設業の営業実態・実績を確認します。

この経験は、本人が常勤役員等となるための過去の経験です。次に説明する、現在の常勤役員等を直接支える補佐者とは、証明する人と役割が異なります。

なお、大阪府手引きには類型をまたぐ経験の合算の取扱いもあり、a1とa2の合算は5年、a3を含む所定の合算は6年の基準が示されています(2-16)。異なる肩書の期間を自己判断で足すのではなく、各期間がどの類型に当たるかから確認します。

ロ(b1・b2):役員本人の経験と直接補佐者の両方が必要です

b1の「2年」と「5年」は、必ず別々に積む年数ではありません

b1は、建設業に関する役員等の経験が2年以上あり、かつ、建設業に関する役員等、または役員等に次ぐ職制上の地位で財務管理・労務管理・業務運営のいずれかを担当した経験が5年以上ある場合を検討します。

たとえば、建設会社で役員等に次ぐ地位として業務運営を担当した3年の後、役員等として2年を経験した場合は、本人の経験について合計5年として検討する余地があります。これは各期間の職制・業務・実績を証明できることを前提にした説明用の例で、許可を保証するものではありません。

役員等の2年は、5年の経験の内訳に含まれ得ます。「2年に加えて別に5年、合計7年が必要」と単純加算するものではありません。ただし、同時期の兼任を二重に数えて経験年数を増やすこともできません。大阪府手引きの図例では、建設業でない期間や、次ぐ地位であっても所定の3分野を担当していない期間を除いて確認しています(2-15)。

b2は「建設業2年+他業種3年」に固定されません

b2では、役員等として5年以上の経験があり、そのうち建設業に関する役員等の経験が2年以上あることを確認します。他業種での役員経験も検討対象になります。

したがって、建設業3年・他業種2年という内訳も、年数上の検討対象です。重要なのは実際の経験の内訳と証明できる期間であって、「建設業がちょうど2年、他業種がちょうど3年」という固定された組合せではありません。

b1・b2のどちらも、c1〜c3の直接補佐者を確認します

役員本人の年数を確認しただけでは、ロの要件は完結しません。現在の常勤役員等を直接補佐する者について、次の3分野をそれぞれ確認します。

  • 財務管理(c1):工事に必要な資金の調達、資金繰り、下請代金の支払など。
  • 労務管理(c2):社内・現場の勤怠管理、社会保険関係の手続など。
  • 業務運営(c3):経営方針・運営方針の策定、実施など。

各分野について必要なのは、許可を申請する事業者における5年以上の建設業の業務経験です。役員本人の要件で前職の経験を使えることと、直接補佐者の経験にこの条件が付くことを混同しないでください。新設会社が外部の経験者を集めれば、そのままこの条件を満たすという制度ではありません。

また、3分野を必ず別々の3人で担当する必要はなく、一人が複数分野の所定経験を持つ場合は兼ねられます。大阪府手引きの例も、財務管理と労務管理を一人が担当する構成を示しています。

現在の体制としては、組織上も実態上も常勤役員等との間に他の者が介在せず、直接指揮命令を受けて常勤で業務を行う関係が必要です。業務分掌規程、組織図、人事発令、在職期間の資料等で、過去の経験と現在の配置を分けて説明します。大阪府手引きはb1・b2についても事前相談を案内しています。

証明で止まりやすいのは、経験と資料がつながらない箇所です

年表を作ると、空白や重複が見つかります

勤務先・事業形態、建設業を営んだ期間、就任・退任日、権限や担当業務が変わった日を年月日で並べます。暦年や決算期の枚数を数えるだけでは、必要な年数を確認できないことがあります。

その年表に、登記・申告・工事・在職・社内権限の資料で確認できる期間を重ねます。大阪府手引きは、工事資料で確認する場合、各年の代表的な工事と翌年の工事の間隔が1年以上にならないようにし、間が空く場合は間の別の工事実績を確認するとしています。具体的な確認方法は経験類型と当時の許可の有無に応じて判断します。

前職の経験は、社内記録を得られるかも確認します

登記は取得できても、過去の確定申告書、工事書類、権限規程や議事録は手元にないことがあります。以前の勤務先に、対象期間・確認したい地位・必要になりそうな資料を整理して協力を相談します。

資料が足りない場合に「難しいルートだから無理」と決めつけることも、「在籍証明があるので大丈夫」と判断することも避けます。残存資料、証明者、追加確認の方法を申請先とすり合わせる必要があります。

現在の常勤性と、他の許可要件は別に確認します

どの類型でも、申請時の常勤役員等としての地位・勤務実態を確認します。大阪府手引きは、対象者に応じた標準報酬決定通知書、住民税関係資料、就任・雇用直後の報酬・賃金関係資料等の組合せを示しています(2-36〜2-37)。一律の書類セットではありません。

他社役員を兼ねている場合などは、役員兼任と常勤性の確認もご覧ください。経験者の名義を借りるだけでは要件を満たせません。

経営体制の見通しが立っても、営業所技術者等、適用対象の社会保険、財産的基礎、誠実性、欠格要件などは別に確認します。経営経験の要件を満たすことだけで、許可全体の可否は決まりません。

ルート選定は、この5段階で進めます

  1. 経歴年表を作る:勤務先、業種、役職、就任・退任、空白・兼任期間を書き出します。
  2. 当時の地位と権限を確認する:登記、組織図、決議・権限規程、業務分掌等から該当し得る類型を絞ります。
  3. 建設業の実態と経験期間をつなげる:申告書、工事実績、許可関係資料等の所在と、確認できる期間を整理します。
  4. ロを検討するなら直接補佐者を確認する:申請事業者での3分野各5年以上の経験、現在の直接補佐関係・常勤性を確認します。
  5. 申請先へ事前相談する:類型の候補、残っている資料、不明点を提示し、追加資料と準備の順番を確認します。

複数の候補があれば、年数だけで一つに決めず、証明できる事実と現在の体制を比較します。大臣認定を一般的な代替策として当て込むのではなく、必要なら認定対象・手続から個別に確認します。

まとめ――肩書と年数から、事実と資料の整理へ

役員経験が5年に満たなくても、別の経験類型を検討できる場合があります。一方で、執行役員の肩書、補佐したという説明、人数の確保だけでは足りません。まずは本人の経歴と当時の資料を照らし合わせ、組織体制の類型なら直接補佐者の経験と現在の配置まで確認しましょう。

タケウチ行政書士事務所では、建設業許可の申請支援として、経験の候補と証明資料、現在の体制を整理します。支援内容・費用は料金案内、個別のご相談はお問い合わせからご確認ください。許可の可否や完了時期は、資料と申請先の確認を経て判断するもので、一律に保証するものではありません。

最新情報の確認先

2026年9月24日時点で、次の一次情報を確認しています。大阪府手引きは令和8年3月改訂版の第2章(特に2-1〜2-16、2-36〜2-37)を参照しました。制度・様式・確認資料は変わることがあります。大阪府以外へ申請する場合は、その行政庁の最新版を個別に確認してください。

よくある質問

建設業の役員経験が5年未満でも常勤役員等の要件を満たせますか。

権限委任を受けた地位での5年の経営管理経験、準ずる地位での6年の補佐経験、所定の役員経験と直接補佐者を組み合わせる体制などを検討できます。各類型の経験内容・年数・証明資料と、申請時の地位・常勤性を個別に確認します。

執行役員という肩書が5年あれば認められますか。

肩書だけでは判断できません。大阪府手引きでは、取締役会設置会社での決議による具体的な権限委任、対象となる建設事業部門、実際の経営業務管理と期間などを確認します。会社法上の執行役と、社内呼称の執行役員も区別してください。

補佐経験は5年で足りますか。

本人の過去の補佐経験を使うイ(a3)は、建設業に関し準ずる地位で6年以上補佐した経験が基準です。一方、ロの直接補佐者は、申請する事業者での建設業の財務管理・労務管理・業務運営について各5年以上の経験を確認する別の仕組みです。

財務・労務・業務運営には必ず3人の補佐者が必要ですか。

3分野の要件を満たす必要はありますが、必ず別々の3人を置くという意味ではありません。一人が複数分野の所定経験を持つ場合は兼ねられます。各分野の経験内容・期間に加え、現在の直接補佐の関係と常勤性を確認します。

過去の経験があれば、申請時の常勤性を示さなくてもよいですか。

過去の経験と現在の常勤性は別に確認します。常勤役員等としての現在の地位・勤務実態が必要で、ロの直接補佐者にも現在の配置と常勤性が求められます。他社との兼任や就任直後の場合は、大阪府の最新版の確認資料と申請先への相談が重要です。

経験の候補と、残っている資料から一緒に整理します。

役職と在任期間、担当した業務、勤務先の業種、資料の有無を分かる範囲でお知らせください。初回のお問い合わせで個人番号や詳細な税務資料を送る必要はありません。必要な資料と受渡方法は個別にご案内します。

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