結論:給与所得の欄だけで一律に判断するものではありません

所得税の確定申告書には、事業所得と給与所得が同じ年度に記載されることがあります。国税庁は、事業所得を事業から生じる所得、給与所得を使用人や役員等が受ける給料・賃金・賞与などの所得として区分しています。

しかし、税務上の所得区分と、建設業許可で経営経験や常勤性が認められるかは、同じ判断ではありません。給与所得が記載されている事実は、他社勤務や役員報酬等があったことを示す手掛かりになりますが、それだけで次の事実までは確定しません。

  • 誰から、どの立場で給与を受け取ったのか
  • 雇用・役員期間はいつからいつまでか
  • 週何日、何時間勤務していたのか
  • 同じ期間に個人事業として建設工事を継続していたのか
  • 申請時点でも別の勤務を続けているのか

たとえば、自分が役員を務める法人からの役員報酬も税務上は給与所得です。他社でのアルバイト給与と同じ欄に現れる場合があるため、給与所得の有無や金額だけを見て「経営者ではなかった」と結論づけることはできません。

一方、証明したい期間の大半を他社の従業員として勤務し、個人名義の建設工事資料がほとんど残っていない場合は、個人事業主として建設業を経営していた経験を説明しにくくなります。確定申告書の記載内容と実際の働き方、工事資料が一致しているかを確認することが重要です。

最初に分けたい「過去の経営経験」と「現在の常勤性」

給与所得が関係する相談では、二つの論点が混ざりやすくなります。

確認する論点 主な確認時点 確認したい事実
過去の経営経験 証明に使う過去5年以上の期間 建設業の経営業務を管理していたか
申請時点の常勤性 許可申請を行う現在 申請者の営業所で常勤役員等又は個人事業主として常勤しているか

過去に短期間のアルバイトがあっても、申請時点では完全に退職し、個人事業へ専念している場合があります。反対に、過去の個人事業実績は十分でも、現在も他社で常勤勤務していれば、申請時点の常勤性が問題になります。

それぞれ別の確認が必要ですので、「給与所得があるか」だけでなく、いつの給与かを最初に確認します。

常勤役員等の基本的な考え方は、建設業許可の常勤役員等とは?経営経験・常勤性・証明資料を解説で整理しています。

大阪府で個人事業主の経営経験を確認する資料

大阪府の「建設業許可申請の手引き(令和8年3月改訂版)」では、個人事業主として建設業の経営業務を管理していた経験について、次の二つで確認できた期間が全て重なる範囲を経験年数としています。

1. 営業の実態を確認する所得税確定申告書

営業の実態は、所得税確定申告書の第一表等で確認します。電子申告の場合は税務署の受信通知も確認対象です。

ここで確定申告書は、個人事業が存在していたことを確認する重要な資料です。ただし、確定申告書があるだけで、建設業の工事実績や経営経験の全期間を証明できるわけではありません。

2. 営業の実績を確認する建設工事資料

営業の実績は、工事内容・工事期間・請負金額が確認できる資料で確認します。大阪府の手引きは、法令上求められる経験期間について毎年分の代表的な建設工事を確認し、確認する工事と翌年の工事との間隔が1年以上になる場合は、その間の別の工事実績も確認するとしています。

したがって、給与所得がある年度でも、次のような個人事業の資料が時系列で揃っているかが重要です。

  • 自分が受注者となっている工事請負契約書、注文書・請書
  • 工事内容、工事期間、請負金額が分かる請求書等
  • 請負代金の入金を確認できる通帳等
  • 工事と工事の間隔を確認するための一覧表

大阪府の手引きには、給与所得が記載された年度を一律に経験期間から除外するという基準は示されていません。もっとも、他社勤務と個人事業の工事が同時期にある場合、その働き方と工事資料に矛盾がないか、追加説明や資料を求められる可能性があります。

給与所得がある年度で確認したい5つの事項

1. 給与の支払元と立場

まず、給与を支払ったのが前職の会社、アルバイト先、親族会社、自分が役員を務める法人のいずれかを確認します。同じ給与所得でも、事実関係が異なります。

源泉徴収票や雇用契約書、役員就任・退任の資料等を使い、支払元と立場を明確にします。

2. 給与が発生した期間

年額だけでは、勤務期間が一年間なのか、独立前の数か月だけなのか分かりません。源泉徴収票、雇用契約書、退職証明書、給与明細等から、個人事業と重なった期間を月日で整理します。

3. 勤務日・勤務時間と個人事業の両立状況

夜間や週末だけの勤務と、平日の日中を含む継続的な勤務では、個人事業へ関与できる時間が異なります。形式上の契約名だけでなく、実際の勤務日、勤務時間、勤務場所を確認します。

4. 同じ期間の建設工事実績

給与がある期間にも、個人名義で工事を受注し、見積り、契約、施工管理、請求、入金管理等を行っていたことを資料で確認できるかが重要です。単に現場で作業していた事実と、個人事業主として工事を請け負い経営業務を管理していた事実は分けて整理します。

5. 社会保険の所属

申請時点で他社の健康保険・厚生年金に加入している場合は、その会社での勤務実態を確認する材料になります。また、二以上事業所勤務の取扱いがある場合、大阪府の手引きは確認書類が異なるため事前相談するよう案内しています。

二以上事業所勤務届を提出しているから直ちに不許可になる、又は必ず常勤性が認められないという意味ではありません。申請者側での役職、勤務日・勤務時間、報酬、営業所への勤務実態等を個別に確認します。

問題になりやすいケースと整理しやすいケース

次の表は許否を決める基準ではなく、申請前に追加確認が必要になりやすい事情を整理したものです。

状況 確認のポイント
独立年の途中まで前職の給与がある 退職日と開業後最初の工事日を確認し、期間を切り分ける
夜間・休日に短時間のアルバイトをしていた 雇用期間・勤務時間と、同期間の工事受注・管理実態を確認する
他社で平日日中の勤務を継続していた 個人事業へ関与した時間、受注者名義、工事資料、社会保険の所属を確認する
自分が役員を務める法人から役員報酬を受けた 他社給与と区別し、法人役員としての期間・常勤性・法人の工事実績を確認する
日当で他社の現場へ入っていた 請負か雇用かを名称だけでなく、指揮命令、報酬、契約、受注者責任等の実態から整理する

特に「常用」「応援」「外注」といった呼び方だけでは、請負か雇用かを判断できません。後から経営経験に使うために契約名や所得区分だけを変更するのではなく、当時の契約と働き方を示す原本に基づいて整理してください。税務上の所得区分に疑問がある場合は、税理士等へ確認します。

申請前に作る時系列表

給与所得がある年度は、次のような表を年ごと又は月ごとに作ると、資料の不足を見つけやすくなります。

期間 個人事業の状況 主な建設工事資料 給与の支払元・勤務状況 社会保険
2021年1月〜3月 開業準備 なし 前職に常勤 前職加入
2021年4月〜6月 開業・受注開始 注文書、請求書 前職を退職 資格喪失日を確認
2021年7月〜12月 個人事業を継続 複数の工事資料、入金記録 週末のみ短時間勤務 加入状況を確認

上記は整理方法を示す仮定例です。実際の経験期間は、提出・提示できる資料と申請先の審査により確認されます。

確定申告書を何年分用意するかについては、確定申告書が6年分必要になるケースとは?5期分では5年を証明できない大阪府の注意点もご確認ください。

大阪府へ相談するときの資料チェックリスト

  • 証明に使いたい経営経験の始期・終期を日付で書き出した
  • 各年度の所得税確定申告書を並べ、事業所得・給与所得等の記載を確認した
  • 給与の支払元、雇用・役員期間、勤務日・勤務時間が分かる資料を確認した
  • 建設工事の契約書、注文書・請書、請求書等を日付順に並べた
  • 工事内容、工事期間、請負金額を確認できるようにした
  • 工事資料と翌年の工事資料の間隔を確認した
  • 通帳等で請負代金の入金名義・時期を確認した
  • 健康保険・厚生年金等の加入先と資格取得・喪失日を確認した
  • 過去の経験と申請時点の常勤性を別の欄で整理した
  • 説明のために新しい書類を作り直さず、当時の原本を揃えた

一人親方・個人事業主の許可要件全体は、一人親方でも建設業許可は取れる?個人事業主が確認したい6つの要件で解説しています。

まとめ:所得欄ではなく、期間と実態を資料でつなぎます

確定申告書に給与所得があることだけで、その年度の経営経験が自動的に否定されるわけではありません。大阪府で個人事業主としての経験を証明する場合は、所得税確定申告書による営業の実態と、工事内容・工事期間・請負金額が分かる建設工事資料による営業の実績を重ねて確認します。

給与所得がある年度では、支払元、期間、勤務時間、社会保険の所属、同じ時期の工事資料を時系列で整理してください。また、過去の経営経験が認められるかという問題と、申請時点で常勤性があるかという問題を混同しないことが大切です。

当事務所では、確定申告書の所得欄だけで結論を出さず、残っている工事資料や勤務関係資料を確認し、証明に使う期間と申請時点の状況を整理します。

最新情報の確認先

本記事は2026年9月19日時点で、次の一次情報を確認して作成しています。法令、手引き、審査基準及び確認資料は変更されることがあるため、実際の申請時点でも最新版をご確認ください。

よくある質問

確定申告書に給与所得があると、その年度は必ず経営経験から除外されますか。

いいえ。大阪府の現行手引きには、給与所得の記載だけを理由に一律に除外する基準は示されていません。個人事業主としての営業実態と建設工事の実績を証明したい期間について確認し、他社勤務の期間・勤務実態との整合も含めて個別に整理します。

過去の副業と申請時点の副業は同じ問題ですか。

同じではありません。過去については、その期間に建設業の経営業務を管理していた経験を確認できるかが中心です。申請時点については、常勤役員等又は個人事業主として営業所で常勤しているかが中心となります。両方に関係する場合もありますが、確認する時点と資料を分けます。

給与所得が少額なら問題ありませんか。

金額だけでは判断できません。給与の支払元、雇用期間、勤務日・勤務時間、社会保険の所属、同じ期間の建設工事実績などを合わせて確認します。少額であっても勤務実態との整合確認が必要になることがあります。

二以上事業所勤務届を出していると建設業許可は取れませんか。

届出があることだけで一律に結論づけることはできません。大阪府の手引きは、二以上事業所勤務に関する通知書等では確認書類が異なるため事前相談するよう案内しています。申請者側での勤務実態と常勤性を、勤務先、報酬、勤務時間等の資料で個別に確認します。

相談前にどの資料を並べればよいですか。

証明したい年度の所得税確定申告書、工事内容・工事期間・請負金額が分かる契約書・注文書・請求書等、給与の支払元と期間が分かる源泉徴収票や雇用関係資料、社会保険関係資料を用意します。年度別ではなく月日順にも並べ、事業と勤務が重なった期間を分かるようにします。

関連ページ

確定申告書と働き方を、同じ時系列で確認します。

給与所得がある年度の確定申告書、建設工事の契約・注文・請求資料、給与の支払元と期間が分かる資料をお持ちの範囲でご用意ください。過去の経営経験と現在の常勤性を分け、不足する説明・資料を申請前に整理します。

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